Coffee Column
コーヒーコラム
ブラウンブックスカフェのコーヒーにまつわる日々のコラム

Yoko Hoshikawa
ブラウンブックスカフェ/ブラウンブックスヴィンテージ店主。
コーヒーとHip Hop を愛する2児の母。札幌在住。
Chihiro Taiami
妖怪が大好きな円山店時代の元スタッフ。
4人の子供の育児の合間に当店のコラムを担当している。道南在住。
  • title
    サンちゃん
  • date
    2024年03月23日

うちにはサンちゃんという名まえの金魚がいる。

対面キッチンの細い棚の上、涼しげに金魚鉢の中を泳いでいる。ちょっと不安定な場所のような気もするが、届くところに置くとまだ小さな子どもが手を突っ込むし、日当たりもちょうどよいのでここにいてもらっている。

帰ってきて手を洗うとき、スイスイと泳ぐサンちゃんは必ず視界に入ってくる。お祭りの金魚すくいで取れずに、おじさんがおまけしてくれたサンちゃん。金魚鉢が小さくなってきたな。

この金魚鉢は先代のコメちゃんという金魚の時に買ったものだけど、コメは家に来て二ヶ月ほどで羽が生えて旅立っていってしまった。

サンちゃんは強く、多少の過酷な環境でも生きている。私がインフルエンザになったとき、うがいをしようと思ったら急に咳が出て、ゴブォッと金魚鉢にあらん限りの唾を飛ばしてしまった。しかも辛いから、サンちゃんごめんと思いながらも、回復するまでそのままだった。それでもなんともないわというふうに泳いでいた(すごい嫌だったかもしれない)

まだ一歳の末っ子は、サンちゃんを見るのが好きで、ダイニングテーブルの上によじ登り顔を近づけすぎて、金魚鉢ごとシンクの中におっことした。サンちゃんピクピク…九死に一生を得た。排水溝の金網まで流れなくて本当によかった。

夏にじいちゃんが釣ってきた数十匹のサバを、目の前でバッタバッタとさばいていく様は、目を覆いたくなったかもしれない。小麦粉つけて、卵つけて、パン粉つけて…ああっあんな姿にっ。フライは最高だったなー。

サンちゃんよりはるかにでかいホッケも、うちではよく出てくるが、魚焼きコンロに入れられ、出てきたころにはじゅーじゅーと油の乗ったいい匂い。

金魚鉢を洗うときは、水を張ったボウルに、ラーメンのレンゲで一時移し替える。台所に住んでいるが故、食われるわけではないのに、食器と共存する暮らしぶりだ。

私が気分よくコーヒーを淹れるのもサンちゃんの目の前だ。

ちょろちょろ、ふわぁ〜ん、ぽたたたた…

このいい音と香りを、最初にサンちゃんと共有する。

うちにいてたいしたおかまいもできないし、色々ご迷惑もおかけしているが、これだけはちょっとおもしろい環境だと思ってはくれないだろうか。

サンちゃんは今日も、日のひかりに照らされた金魚鉢の中を、大きくなったり小さくなったりしながらキラキラ泳いでいる。

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Chihiro Taiami

  • title
    コーヒーのいらなかった時間
  • date
    2024年02月21日

コーヒーを飲むずっと前から一緒にいた友人たち。

部活の帰りにバナナを食べていたのを見られて先生に怒られて、その次の日は大声でSMAPを歌っていたら先輩に近所迷惑だと怒られた。

学校から家まで遠くて、なにがそんなに面白かったのかわからないけど、笑い転げて立てなくなって、帰りはさらに遅くなった。最後の二人になるとちょっと秘密の話になり、分かれ道で一時間以上語り合ったこともあった。

地元の神社の秋祭りでは、こぞってチキンステーキの屋台に列んだ。変なポーズで「写ルンです」という使い捨てカメラで写真を撮った。私を含め、そのうち何人かはオーバーオールを着ている。

家に集まって好きな曲をかけ、ただ寝ている人がいたり、マンガを読んだり。帰るまでほとんど会話もしないで、思い思いに過ごした空間は心地がよかった。

自転車の荷台に立ち乗りをして、集団で床屋に髪を切りに行った。床屋のおばちゃんにしてみたら、わいわいがやがや、保育園児のようだったと思う。

ナントカ流星群の夜には、みんなで晩ごはんを作り、分量無視で水を入れすぎた薄いカレーができた。夜中に屋根の上で見た流れ星は綺麗だった。つま先をめちゃめちゃ蚊にやられた。

けんかはたまにしたけど、仲間外れや、グループ内が真っ二つに分かれるようなことがほとんどなかったのは、お互い性格も好きなものも違いすぎて、その違うということを大事にしていたからだと思う。ゆるっとしているようで、人のテリトリーまで立ち入りすぎないような、そんな人たちだった。

住む場所もはなれて、最近はなかなか会えていない。それでもつかずはなれず、何十年もやってきたから、今は大きな流れの中のそういう時期なんだと思っている。

心も体も一緒に成長した日々は愛おしい。ダサいこともたくさんしたけど楽しかった。恋もしていたけど、私の成長に必要だったのはこの友人たちだろう。

歳を取ったら、みんなで一緒に老人ホームに入ろうと約束した。そのためのブタの貯金箱はどこへ行ったかな。いや、ふざけ半分に探し回って、結局買わなかったんだっけ。

またいつか集まったら、コーヒーなんか飲まなくていいから、近況なんて話さなくていいから、ファンタを飲んでポテチのカスをまき散らして、だらっとした時間を一緒に過ごしたい。

はなれていても、おばあちゃんになるまで、一緒に歳を重ねたい。

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Chihiro Taiami